ある地方の小さな町、そこへ紛争地域に派遣された兵士が帰ってきた。この時、偶然、彼の近くに居合わせた子供が
交通事故に会う。劇は子供の死の回想から始まる。パトカーの追跡を振り切って逃げた若者は麻薬中毒で失業中の 青年、パトカーを運転していて子供を轢き殺した女性警官はテロの妄想に陥っている。子供の母、その夫、夫の母でア ルツハイマー病を患う祖母。介護の末に祖母を手にかける夫、息子と家族を失った妻と、心に傷を負って紛争地域か ら帰還した元兵士が次第に接近して行くが・・・。
現代ドイツ演劇においてブレヒトの後継者とも言われるデーア・ローアー。複雑化する現代社をより多層的にとらえるコ
ロス主体のポリフォニック(多声的)な群像劇でもある本作は、叙事的、物語的な構造を持った作品で、テクストは叙事 的でありつつ詩的でもある。コロスによって語られる場面が多用される手法は、ギリシア悲劇に通じる劇作法とも言えよ う。しかし登場人物英雄たちではなく、ここでは社会の片隅に生きる無名の人々。この無名の人々=コロスが次第に舞 台の中心となって行く劇作手法を取る。
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