記録 林英樹
テラ・アーツ・ファクトリー集団創作作品
『ヒロコ』
(上演パンフレットより)
●発端
立川に仕事の縁があり10年ほど通ったことがある。テラ・アーツ・ファクトリー(以下テラ)のメンバーに立川で生まれ育
った中内智子がいた。8年前からテラのワークショップに通う若林則夫さんが、ある日、伊達秋雄氏(「砂川事件」で米
軍違憲判決を下す)の授業を受けたことがあると話し、因縁を感じた。この「出会い」と縁から「土地と記憶を巡る地誌
演劇」の作品づくりが始まった。
●集団創作
当初、「連合赤軍事件」の「総括」で犠牲となった横浜国大の学生、大槻節子さんの日記を作品材料にしたいと考えて
いた。そこに立川というもう一つの材料が加わった。この二つの材料をどう結び付けるか。二つの異なった背景を持つ
材料を設定し、そこに繋がりを見出していく。これまで追求してきた<ブリコラージュ>の作り方を今回も適用した。稽
古場はこうして「材料」の様々な「関係性」を探る思考と実験の場と化した。全員がこの思考作業、実験作業に関わる。
はじめに台本があって、それを暗誦し段取り稽古をしてゆく「芝居作り」の常套ではありえない困難があると同時に、全
員が参加して舞台を作って行く集団創作の醍醐味がここにはある。
●プロセス
質問形式の即興ダイアローグ(テラが生み出した稽古方法・テクスト創作方法の一つ)は立川だけでなく、それぞれが
生まれ育った練馬や川越、更に子供の頃の記憶の掘り起しに及んだ。そこで明らかになったことは、個人史が同時に
一定の普遍性を持った歴史時間と様々な重層構造を持って関係している「関係性」であった。現在という共時的な時間
だけでなく、歴史を通じた「通時的」な時間も共有しているという今更ながらの当たり前のことであった。私たち(今回は
20代〜60代、親子間ほどある年齢差の人間が一緒に創作チームを形成)は世代間で「断絶」しているように思われる
一方、時間の連続性と継続性による<共同性>の可能性も持っている。そのことを改めて発見し認識するプロセスが
稽古場で生まれた。
●「リアル」を疑う
事実を既成事実として鵜呑みにする、その時、思考の保守、停滞は始まる。現状容認、現実主義、現実的・・・そうした
文言によって、政治も、いまある基地問題(普天間問題が象徴的)も受容されていく。われわれがリアルと信じる「神話」
を懐疑し、もう一度とらえ返す作業としての「ダイアローグ」は自分自身(がリアリティーがあると感じているもの)をもう一
度見直す契機になる。
稽古場での即興ダイアローグによる方法と、出演者に対するインタビュー方法はそのまま作品化された。こうして第一
場は「即興ダイアローグ」、第二場は「インタビュー」となり、第三場は「もう一つの地層」という三場構成になった。
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